2015年10月 橿原考古学研究所附属博物館

「人のかたちの埴輪はなぜ創られたのか」


秋の日差しの優しい一日、奈良の橿原考古学研究所附属博物館に行ってきました。
2011年、桜井市の茅原大墓古墳から出土された日本最古の「盾持埴輪」 について、古代の歴史の中でどう位置づけられるのか、 どこまで研究が進んでいるのか、通史的な特別展示が開催されていて 見ごたえがありました。

この最古の「盾持埴輪」出土の持つ大きな意味は、 人をかたちどった埴輪がいままで言われていた時期よりもっと早くに出現していた という所にあり、今までの定説に再検討の必要がせまられました。

上記ポスターの埴輪が、日本最古の「盾持埴輪」です。入れ墨の跡も認められるという。

古墳での葬送儀礼に使われる埴輪に、この表情。不思議な表情です。 新聞やニュースでは「笑顔の埴輪」と紹介されていたみたいですが そういうのはやめていただきたい。

盾持埴輪以前の埴輪は、人の頭がのっかかっていない 筒に盾をくっつけたような形(盾埴輪)が多く出土されています。 展示を見ているとよく判るのですが、盾埴輪は 盾に文様が細かく丁寧にかかれていて、この時期にはすでに 「鉄製」が入っていたことも確認されているので 人々の関心が「鉄製盾」に強く向いていたことが分かります。 「盾埴輪」から「盾持ち埴輪」に移行しく過程でも、 盾埴輪に人の頭をくっつけたような形のものが主流であり、 別々に作ってくっつけているということ、および、 手足をまったくつけていないということ から、人をかたどったというよりは、頭をくっつけることで なんらかの意味を持たしたのだろうと思われます。

しだいに、盾の文様が失われていくと同時に、 埴輪は、人型埴輪へと移っていきます。 手足や髪型や、服装など表現されていきます。 製作も、頭と台座を別々に焼いてくっつける工程から、 頭と台座を最初から一体のものとして作られるようになります。 「台座」が「胴体」になったことを意味します。 その流れのなかで、埴輪の「表情」はどういう変遷をみたのでしょうか。 民族や文化人類など、考古学以外からのアプローチが必要に なるのかもしれませんね。

私が空想しているのは、この茅原大墓古墳から出土された表情の持つ意味は、「魔除け」「威嚇」ではなかっただろうか、ということなのです。 卑近な例えで恐縮なのですが、犬やサルの表情を考えたらわかりやすいのではないか、と。動物は、歯を見せることで威嚇します。チンパンジーなどは 歯を見せてヒーヒーと笑っているように見えるけれど、歯を見せない笑いとは違う意味を持っている話は有名です。そして、この埴輪には入れ墨が施されている跡があるという。

人のかたちの埴輪はなぜ作られたのか。

興味の対象が、おそらく権力の象徴であった盾や鉄といったものから人間に移っていったから…
だと思うのですが、どうでしょうか。



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