2019年9月 松山市考古館

松山市中心街から西へ3kmほどの所に松山考古館という博物館がある。ぼんやりと地図を見ただけの所感だが、北側からの伸びきった尾根が尽きる場所で、大峰ヶ台と岩子山と名付けられている。麓を流れる宮前川がまるで山に沿うかのようにクルッと回っているのも不思議な地形だ。
大峰ヶ台、岩子山ともに古墳群や遺跡跡があり、その発掘調査もかねて公園整備をし、博物館も建設したものと思われる。


JR松山駅から徒歩でも行けると思いますが、今回はバスを使用しました。丸山バス停という住宅地で降り、そこから徒歩で10分ほど山へ向かうと考古館へ到着します。
天気予報では雨となっていましたが、すっきりとした秋晴れの一日。付近に古墳もあるのですが、この後、葉佐池古墳へ訪れる為、考古館の見学も急ぎ足になります。そんな中でも気になった展示をいくつか紹介してまいりたいと思います。

入館すると広いロビーがあり、正面に受付。左側に常設展示室、特別展示室、無料展示スペースがあり、常設展示のみが有料となっています。
無料展示スペースには「木炭床」と呼ばれる石室がレプリカ展示されています。これは石室の中にさらに石でひと区画を作り、そこへ「木炭」をいれてます。使用目的は分かっていませんが、防湿の為か獣による掘り返しの予防が推測されるそうです。

レプリカ石室の隣が有料の常設展示室になります。木炭床という珍しいものを見た後なので、中にどんなものがあるか少しワクワクしながら入室してみましょう。


入室すると目の前にドーン!と大きなジオラマが作られています。これは「古照遺跡の堰」の再現で、岩子山の麓の南江戸地区で発見された4世紀の堰の跡なのです。古墳時代の農業灌漑用の堰で、水位を高める事で周辺の低い水田へと水を流す仕組みだそうです。
「当時の大規模な堰の実態がこの古照遺跡で初めて明らかにされた!」という文句が書かれていることからも分かるように、松山考古館の一番の目玉であるし、またこれを展示するために作られたようにも思えます。

再現に使われている木材は実際に発掘された木材を保存処理したもので、これは高床式倉庫の柱部材を転用したものらしい。木材を斜め、横、縦、と順番に配置し、隙間にオギ、粘土、礫などを詰めて1〜3段積んで構築されていた、と説明されています。これはつまり、作業中に土のダムが水で流れにくくするためにあらかじめ木の柵を作ったという工程だと思われます。

このような土木技術の発展が古墳時代という新しい時代を生み出していく力になっていったわけですね。しかし、その主要因は、技術なのか、道具なのか、人口なのか、難しい問題であります。

次に気になったのは縄文土器です。大渕遺跡から出土したこの土器は口径16cm、高さ44cmの大型壺で、口元から肩にかけてヤツデの葉状の彩文を施し、外側全体に赤色顔料を塗っています。
特殊な手法らしく、日本では他に類例がないそうです。少し形態が異なるが似ているものが朝鮮半島から出土しているので、朝鮮半島となにか関係があるかもしれない、と説明されております。


写真から判断すると朝鮮のものは赤色顔料が塗っていないように見えますがどうなのでしょうか?朝鮮出土の数もわずかしか例がないそうです。説明文からはヤツデの葉もそうですが、赤色顔料も珍しいように書かれているので、あまり答えを急ぐ必要はないような気もします。

謎は謎としておいておき、体形もでっぷり、彩文も黒くてでっぷり、という作品をアートとして堪能しようではありませんか。

さて、お次は分銅形土製品であります。弥生時代のもので、瀬戸内海沿岸や山陰地域に多くみられます。自立するように作られたものがある事や、まゆと鼻を一体で突出させて表現することなどが縄文時代の土偶と共通しており、何らかの影響を受けていると考えられています。
また、入れ墨やヒゲの表現がないことから女性像であり、赤色顔料がついたものがあることから、土偶と同じように人々が願いを込めて使用した祈りの道具だったのではないかと推測されています。

分銅形土器の表情の特徴がとても面白いのです。他の地域では目は普通に描き、眉は吊り上がっていたりすることが多いのですが、ここ愛媛県の分銅形土器は眉と目がニッコリと緩やかなカーブで表現されているのです。
現地を訪問してみて思ったのですが、愛媛県の人達はすごくおっとりとしており、反応が悪いのではないか?と少し戸惑ってしまうほどです。そのような事からこの分銅形土器の印象が非常にしっくりとくるのであります。

その昔、高浜虚子といふ俳句家が鹿児島へ行け、と言われたときに、「生ぬるい四国弁などでぐづぐづいふと頭から鉄拳でも食はされさうな心持もするし・・・。」と書いているそうです。
そのような印象が近代だけでなく、古代までさかのぼる、ということが考古学的にも証明された?のです。

このほかにも、葉佐池古墳の事であったり、久米官衙の事が詳しく説明されております。こじんまりとした展示スペースではありましたが、珍しいものがたくさん用意されております。
個人的にオススメしたいのは分銅形土器ですが、是非とも、現地愛媛の方と色々とおしゃべりをなさった後でご覧ください。この土器に表現されている表情の理由が少し分かる気がしますよ。



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